「象・御柱・アジア」

小林紀晴さん
『アジアンジャパニーズ』発刊記念スライドショー


 今回は『アジアン・ジャパニーズ1』文庫化記念ということで小林紀晴さんにお越しいただきました。

 『アジアン・ジャパニーズ』のもとになったアジアの写真から、小林さんの地元、長野県の諏訪で6年に1度開催される「御柱祭」の写真、そして1年間のニューヨーク滞在から帰国してから撮り始めたという「タイの象」の写真、おまけにご自身で撮影した動画までと盛りだくさんの内容でした。

 まずは小林さんがご入場される前に、動画の上映からスタート。
 この動画というのは『move』というタイトルで、小林さんが撮りためた映像を12分ほどにまとめたもの( ちなみにこの映像は、一昨年に開催された小林さんの写真展で、会場のはじっこのほうで流していたものとのことでした)。2001年、NYに滞在していたころに撮り始めたもので、メキシコやヨーロッパへの小旅行で、飛行機や電車、クルマで移動しているときに撮ったという映像をつなぎ合わせた映像です。

 動画上映が終わったところで、小林さんにご入場いただきました。動画の説明をカンタンにされてから、スチール作品のスライド上映に。





アジアンジャパニーズ1
新潮文庫 定価:620円(税込)

『時は過ぎてもあのたびはいつも僕の中にある』
脱出、逃亡、闘い、モラトリアム――
「深夜特急」に飛び乗った若者たちは、何を求め、アジアを彷徨うのか。





 まずはじめは『御柱祭』。長野県茅野市ご出身の小林さんの地元に伝わる、7年に1度開催される木落としで有名な祭りの写真です。
 「人間の記憶について考えながら撮っているような感じです。御柱祭を生まれてはじめて経験したのは、生後4〜5ヶ月の頃。その頃の記憶はもちろんないわけですが、その後、小学校にあがった年、中学1年、上京した年。。と、節目節目でこの祭りを体験してきているんです。とくに子供の頃にみた記憶というのは強烈で。。ふだんとても静かに暮らしている人々が、この祭りのときだけは我を忘れるようにして、まさに狂喜乱舞する。その光景がとても強烈だったわけで、それは今年の祭りでも同じなのですが。。この御柱祭という祭りに参加するということは、僕にとって過去の記憶を思い起こす作業に似ているように感じています。それは諏訪地方に住むほかの人々にとってもおそらく同じようなものなのではないかと思います」

* * *

 次はモノクロで撮られた『象』の写真。1年間のNY滞在から帰国した半年後。アジアの熱帯のにおい。植物が暴力的にあって、太陽がぎらぎら射してて、のどが渇く感じ。水が飲みたい感じ。
 「パタヤのゲストハウスに泊まっていたときのこと。これまで観光用の象乗りなんて気にもとめていなかったのが、この時はなんとなく気が向いて1時間ほど象に乗ってみました。目の前に象がきて、それをパチッと1枚写真に撮ってみた。その時、「ああ、これからは象を撮っていこう」と強く思いました。アジアンジャパニーズもそうですが、もともとモノクロで撮ることに熱中し、そのあと一時カラーで撮って、ここへきてふたたびモノクロで撮っている。モノクロのフィルムをカメラに入れているときとカラーを入れているときでは、あきらかに気持ちが違う。気持ちが違うし、見ているものも違う。カラーだと感情移入しにくいということがあるのかもしれない。。。この象の1枚はすごく気に入っています」

 モノクロで撮るということについては小林さんの思い入れが
強くあって、お話しはさらに続きました。

 「遠ざかっていくもの、逃げていくものを手を伸ばして掴みたいという気持ち。モノクロフィルムを使うのはそういう気持ちがはじめにあります」

 「写真を撮るときは、かなり写真のことばっかり考えています。モノクロの場合は、自分でプリントするのですが、プリントのしがいがある。暗い暗室のなかでやっていること(プリント)と、太陽がぎらぎら照っている中で撮っている行為。作品をつくるにあたっては、本当は冷静に撮っていないといけないんだろうけど、このあたりのギャップをとても面白く感じていたりしますね。これからしばらくは1年に数回はタイに行って象を撮り、いつか写真集にできればいいなと思っています」


 最後はこの日のメイン、アジアの写真です。『アジアン・ジャパニーズ 1』とは直接的に関係はないのですが、1991年から 95-96年の間に小林さんが撮ったアジアの風景、ポートレートのスライドを上映しました。
 静かなBGMとともに淡々とアジアの風景が流れていきました。
 スライド上映終了後、少しだけ小林さんがこれらの写真についてお話しされました。

 「この写真を撮っていた頃はひとつのことしか見ていなかったと思います。見れていなかったというか、目の前にあるものをただ撮っていただけというか。遠くのものをつかみたい感覚がすごくあって。。。これらの写真は、そういう風景が目の前にあらわれた時に撮っていったものです。感覚的に。。。旅行している時に溶けていく一瞬を撮る。それに出会えたなら、その旅行に来てよかったなと思えるんです」

* * *

 すべてのスライド上映が終了して、参加者のみなさんからのいくつかの質問にお答えいただき最後にサイン会で締めくくりました。イベント終了後、控え室で小林さんにお礼をいうと「たくさんしゃべりましたよぉ〜」と、少々お疲れのご様子でした。普段なかなかこうしたトーク盛り沢山のイベントはしないとおっしゃっていただけに、この日のイベントのお話は本当に貴重なものだったと思います。小林さん、本当にありがとうございました!


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